COLUMN

CATENA-Xが実現するグローバルサプライチェーン

自動車産業は、グローバルサプライチェーンの複雑化と脱炭素化への要請により、データ共有の壁に直面しています。企業間のデータの孤立は、効率性や持続可能性の向上を阻害する要因となっています。

この課題に対する欧州での取り組みが「Catena-X」と呼ばれる、データ主権を確保しつつ、標準化されたデータ連携を実現するプラットフォームです。

本コラムでは、持続可能なバリューチェーン構築の鍵となる「Catena-X」の意義と展望について詳しく述べます。

Catena-Xとは

CATENA-Xの背景と目的

Catena-Xは、ドイツを中心とした欧州自動車業界が主導するデータエコシステムの構築プロジェクトです。

その背景には、グローバルで自動車産業が直面している以下のような課題があります。

  •  複雑化したサプライチェーンにおいて、部品や製品情報の透明性が不足している
  •  業界全体でサステナビリティやカーボンニュートラルへの対応が求められている
  •  DXの加速による業務効率化と新たな価値創造が急務となっている

これらの課題を解決するため、Catena-Xは自動車産業全体の企業間で、安全かつ円滑にデータを交換できるオープンなプラットフォームの構築を目指しています。
 おもな目的は以下のとおりです。

  •  バリューチェーン全体の透明性向上
     部品のトレーサビリティやCO₂排出量など、企業が保有するデータを連携させることで、バリューチェーンの全体像を把握できるようにします。
  •  競争力とイノベーションの強化
     データ共有を推進し、業界共通の基盤を整備することで、中小企業を含む広範囲な協業や新サービスの創出を促進します。
  •  標準化と相互運用性の実現
     すべての参加企業が対等な立場でデータを活用できるよう、共通の規格やインターフェースの策定・適用を進めています。

CATENA-Xの仕組みと特徴

Catena-Xは、自動車産業のサプライチェーン全体を対象とし、安全かつ効率的にデータを連携・共有するためのエコシステムとして設計されています。

その仕組みは、参加企業同士が相互に接続される分散型ネットワークによって構築されており、各企業は自社データをコントロールしつつ、必要に応じて他社とデータを交換することが可能です。

Catena-Xのシステムは、「データスペース(Data Space)」という概念に基づいています。

これは、企業ごとに独立したデータ管理を維持しつつ、共通のルールや標準に基づいてデータのやり取りを実現する仕組みです。

また、ID管理やアクセス制御などのセキュリティ技術も強化されており、企業間の信頼性を確保しています。

 おもな特徴は以下のとおりです。

  •  分散型・オープンネットワーク
     中央集権的な管理ではなく、参加企業が独自にノードとしてネットワークに参画します。
     これにより、柔軟性と拡張性に優れたエコシステムとなっています。
  •  データ主権の確保
     各企業は自社データの利用範囲や公開先を自ら決定できるため、プライバシーや機密情報の保護が担保されます。
  •  標準化されたインターフェースとプロトコル
     業界全体で共通のデータ交換フォーマットや通信手順を採用することで、多様なシステム間の相互運用性を保証しています。
  •  アプリケーション・サービスの拡充
     Catena-Xはデータ連携基盤に加え、CO₂管理、部品トレーサビリティ、品質管理などさまざまな業務アプリケーションの開発・利用を可能にしています。
  •  中小企業も参画可能な設計
     大手企業のみならず中小サプライヤーやパートナーも容易に参加できるよう、システム導入コストや技術的なハードルを抑えています。

Catena-Xの仕組みは、単なる情報共有プラットフォームにとどまらず、業界全体のデータ利用促進やビジネスモデルの革新、さらには環境負荷の低減といった効果も期待されています。

その特徴的な分散型アプローチと高いセキュリティ・標準化により、今後、グローバルな自動車産業のデジタル化をけん引する基盤となることが見込まれています。

CATENA-X利用のユースケース

Catena-Xは、自動車業界のバリューチェーンにおけるさまざまな課題解決を目的として構築されているため、ユースケースは多岐にわたります。ここでは、代表的なユースケースについて説明します。

  •  CO₂排出量の可視化と管理
     企業間のデータ連携が実現することで、サプライチェーン全体におけるCO₂排出量の追跡が可能となり、各部品や工程ごとの環境負荷を正確に把握できます。
     これにより、自動車メーカーはサステナブルな調達や製造プロセスの最適化に活用でき、脱炭素社会への貢献を加速させています。
  •  部品トレーサビリティ
     部品や原材料がどのような経路で供給されたのか、どのメーカーが製造したのか、過去の品質情報はどうであったのか、といった詳細な情報をCatena-Xのプラットフォームを通じてリアルタイムで共有できます。
    これにより、製品リコール発生時の迅速な原因特定や、品質向上活動の強化が可能となります。
  •  サプライチェーンのリスク管理
     Catena-Xを介して各企業がサプライチェーンの情報を相互に共有することで、供給網の分断や潜在的なリスクの早期察知が可能となり、リスク対応の迅速化を実現します。
     この仕組みは、世界的な半導体不足や物流遅延など、予測困難な事態への業界全体でのレジリエンス向上にも寄与しています。
  •  データ駆動型の新しいビジネスモデルの構築
     オンデマンド型サービスや、製造マッチングプラットフォームなど、データ連携を活用することで、製造業のにおける新たなビジネスモデルの創出を実現します。
Catena-Xに対する国内の動向

ウラノス・エコシステム連係の運用実証PoC事例

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、2025年3月に、日本の経産省が推進する製造業サプライチェーン向けデータ連携基盤「ウラノス・エコシステム」と、Catena-Xとの相互運用性に関するPoC(概念実証)に成功しました。

ウラノス・エコシステムは、欧州バッテリー規則に対応しており、今回のPoCではバッテリー製品のカーボンフットプリント(CFP)データを容易に交換できることを実証しました。

このPoCでは中間層を設けることで、双方のアーキテクチャに影響を与えることなくCFPデータを相互に交換できる仕組みを実装し、その有効性を確認しました。この構成により双方のガバナンス・ルールを尊重したデータ連携の運用が可能になります。

 今後、実務レベルでの実用的な連携を目指して、継続的な検討が行われています。

アプリケーション提供認定事例

株式会社デンソーは、2025年3月に、日本企業として初めてCatena-XのEcoPass認定およびBusiness Application Provider認定を取得しました。

これにより、Catena-Xに準拠したデータ交換が可能となり、Catena-X上で特定のビジネスニーズに応じたソリューションを提供できる企業として認定されたことになります。

今後、2027年2月からは欧州電池規則に基づき、デジタルプロダクトパスポート(DPP)初のユースケースとして、車載用・産業用電池などの電池製品への「バッテリーパスポート」の導入が義務付けられる見込みです。

デンソーは、Catena-X向けのバッテリーパスポート用アプリケーションの開発を進めています。

オンボーディングサービスプロバイダ認定事例

NTTドコモビジネス株式会社は、2025年2月に、日本企業として初めてCatena-Xのオンボーディングサービスプロバイダ認定を取得しました。

この認定取得により、Catena-X利用を希望する企業に対して窓口となり、Catena-Xへの登録手続きサポートを実施できるようになりました。

これにより、日本企業がCatena-Xとデータ連携を行うことが容易になります。

Catena-Xの展望

スケーリングと産業横断的展開

Catena-Xは、2025年末までに1,000社以上の企業を統合することを目標に、グローバルなエコシステムの拡大を進めています。

2025年のIAA MOBILITYで発表された中国とのパイロットプロジェクトが成功し、現在、北米やスペインへの展開も進行中です。これにより、Catena-Xは欧州を基点としたグローバルなデータ連携を強化しています。

さらに、2026年以降は、自動車産業を超えて機械工学や化学分野への適用も見込まれています。これらの分野への拡大により、品質管理やコスト削減の実現、さらには欧州の産業競争力の向上も期待されています。

持続可能性と規制対応の進化

Catena-Xは、持続可能性の向上とEUの規制対応を強化する、重要なツールとして機能しています。特に、製品カーボンフットプリントの標準化とデジタル製品パスポート(DPP)への対応が注目されています。

2025年8月には、産業オートメーションの標準化団体であるOPC Foundationとの提携を通じて、DPPやバッテリー規制への対応強化を目指しています。

課題

各国でデータスペースの構築が進む中、国や地域ごとに異なる法制度やデータ運用ルールが課題となっています。日本のTier1企業にとっては、各国の基盤に個別対応することは現実的ではなく、ウラノス・エコシステムがCatena-Xとの橋渡しを担うことが望まれます。越境データ移転における法的整合の確保や、中小企業への負担軽減を図るためにも、国際的な相互運用モデルの確立と、共通レイヤーによる一元的な連携が今後の方向性となります。

最後に

国や地域ごとに異なるデータスペースや規制対応が進む中、企業がそれぞれ個別に対応することは大きな負担となっています。

SOLIZEは、こうした課題に対して、ウラノス・エコシステムと連携可能なLCA算定ツール 「LC Designer®」を提供しています。

このツールは、一般社団法人 自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センターのアプリケーション認証を取得しており、サプライチェーン全体でのCO₂データ連携を実現します。

関連コラム

logo_img
SOLIZE Holdings
SOLIZE PARTNERS
+81
ページトップへ戻る